意味における物質とはよほど縁の遠い生理学や心理学にまでもだんだん応用が開けて行くようである。
 工業における応用も事新しく述べるまでもない事である。ドイツの工業が著しい長足の進歩をしたのは、その基礎となるべき物理学、化学の研究に帰因するという事は識者の認めている所である。また医学の方でも物理的療法という言葉が出来て、その方の専門家もあるくらいである。また近年目ざましい進歩をしたいわゆる航空術などもやはり応用物理学の一つと云って差支えはあるまい。
 以上に述べたとは少しく異なった殖産事業の方面においても、将来非常に有望な物理学応用の新区域があるように思われる。先ず農業の方面ではつとに農芸物理学という学科が出来ているくらいであるが、今後まだどれだけ発展するか予期し難いように見える。自分の知っている狭い範囲だけでも面白い問題が沢山《たくさん》ある。例えば穀物の研究でも少し詳細にするとすれば、米粒の堅さとか、比重とかを測定する必要が起る。また穀物の生長に及ぼす、光、熱、電気等の影響とか、土壌の物質的性質とかいう問題でも、一つとして物理学の応用を待たぬものはない。また農具の研究並びにその改良等も
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