浮世絵の曲線
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)伽藍《がらん》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ](大正十二年一月、解放)
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浮世絵というものに関する私の知識は今のところはなはだ貧弱なものである。西洋人の書いた、浮世絵に関する若干の書物のさし絵、それも大部分は安っぽい網目版の複製について、多少の観察をしたのと、展覧会や収集家のうちで少数の本物を少し念入りにながめたくらいのものである。それだけの地盤の上に、それだけの材料でなんらかの考察を築き上げようとするのである。ちょうど子供がおもちゃの積み木で伽藍《がらん》の雛形《ひながた》をこしらえようとしているのとよく似た仕事である。それが多少でも伽藍らしい格好になるかならないかもおぼつかないくらいである。しかし古来の名匠は天然の岩塊や樹梢《じゅしょう》からも建築の様式に関する暗示を受け取ったとすれば、子供の積み木細工もだれかに何かの参考になる場合がないとは限らない。
色彩をぬきにして浮世絵というものを一ぺんばらばらにほごしてしまうと、そこに残るもの
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