ヲる風がますます盛んである。俳諧は日本文学の最も堕落したものだと生徒に教える先生もあったそうである。これほど誤った考えがあるであろうか。俳諧風雅の道は日本文化を貫ぬく民族的潜在意識発露の一相である。その精神は閑人遊民の遊戯の間ばかりではなくて、あらゆる階段あらゆる職業の実際的積極的な活動の間にも一つの重大な指導原理として働いて来たものであると思われる。おもしろい事には仏人ルネ・モーブラン(〔Rene' Maublanc〕)がその著 〔Hai:kai:〕 において仏人のいわゆるハイカイを集輯《しゅうしゅう》したものの序文に、自分が何ゆえにこれを企てたかの理由を説明している言葉の中に、一般人士大衆の間にこの短詩形を広めることによって趣味の向上と洗練を促しすぐれた詩人の輩出を刺激するような雰囲気《ふんいき》を作るであろうという意味のことを言っている。フランス人にとってはおそらくそれ以上の意義はないであろうが、日本人にとっては俳諧が栄えるか栄えないかはもっと重大の意義をもつであろう。俳諧の滅ぶる日が来ればその時に始めて日本人は完全なヤンキー王国の住民となるであろう。俳諧の理解ある嘆美者クーシュー
前へ 次へ
全36ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング