@発句は物を取り合わすればできる。それをよく取り合わせるのが上手《じょうず》というものである。しかしただむやみに二つも三つも取り集めてできるというのではない。黄金《こがね》を打ち延べたように作るのだということを芭蕉が教えたのは、やはり上記の方法をさして言ったものと思われる。
 近ごろ映画芸術の理論で言うところのモンタージュはやはり取り合わせの芸術である。二つのものを衝《つ》き合わせることによって、二つのおのおのとはちがった全く別ないわゆる陪音あるいは結合音ともいうべきものを発生する。これが映画の要訣《ようけつ》であると同時にまた俳諧の要訣でなければならない。
 取り合わせる二つのものの選択の方針がいろいろある。それは二つのものを連結する糸が常識的論理的な意識の上層を通過しているか、あるいは古典の中のある插話《そうわ》で結ばれているか、あるいはまた、潜在意識の暗やみの中でつながっているかによって取り合わせの結果は全く別なものとなる。蕉門俳諧の方法の特徴は全くこの潜在的連想の糸によって物を取り合わせるというところにある。幽玄も、余情も、さびも、しおりも、細みもこの弦線の微妙な振動によって発
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