ていてもそれに盛らるる精神的内容はいくらでも進化しうるのである。
十七字のパーミュテーション、コンビネーションが有限であるから俳句の数に限りがあるというようなことを言う人もあるが、それはたぶん数学というものを習いそこねたかと思われるような人たちの唱える俗説である。少なくも人間の思想が進化し新しい観念や概念が絶えず導入され、また人間の知恵が進歩して新しい事物が絶えず供給されている間は新しい俳句の種の尽きる心配は決してないであろう。
話が少し横道にそれてしまったが、ここで言わんとしたことは、俳句が最短の詩形であるがために、その語彙《ごい》の中に連想と暗示の極度な圧縮が必要であるということ、それからまたそういう圧縮が可能となるための基礎条件として日本人のような特異な自然観が必要であること、なおその上に環境条件として古来の短詩形の伝習によって圧縮が完成され、そうしてできあがった語彙の象徴的効力がそれぞれに分化限定されたこと、それらの条件が具備して、そこではじめて俳句という世界に類のない詩が成立したということである。
以上は俳句の内容に関することであったがその五七五の定型についてもその成立
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