の錯雑した中に七五あるいは五七の胚芽《はいが》のようなものが至るところに散点していることが認められる。それがいつとはなしに自然淘汰《しぜんとうた》のふるいにでもかけられたかのようにいろいろな異分子が取り除かれて五と七という字数の交互的連続に移って行っている。こういう現象は決して権勢の力や金銭の力で招致することのできないものであって、やはり進化論的の意味での自然淘汰、適者生存の理によるものであろうと思われる。この七五、また五七は単に和歌の形式の骨格となったのみならずいろいろな歌謡俗曲にまで浸潤して行ってありとあらゆる日本の詩の領分を征服し、そうしてすべての他の可能なるものを駆逐し、排除してしまっている。これは一つの大きな「事実」である。そうだとすれば、これだけの強勢な伝播《でんぱ》と感染の能力を享有する七五の定数にはやはりそうなるだけの内在的理由があると考えるよりほかに道はないであろうと思われる。
要するに七五の定数律は人のこしらえたものではなくて、ひとりで生まれひとりで生長して来たものである。それで今にわかに人為的にこれを破壊し棄却しようとしてもそう急速には意のままにならないであろう
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