小公倍数とか、最大公約数とかいったようなものになるという、そういう本質的内在的な理由もあったであろうが、また一方では、はじめはただ各個人の主観的詠嘆の表現であったものが、後に宮廷人らの社交の道具になり、感興や天分の有無に関せずだれも彼もダンスのステップを習うように歌をよむことになって来たために、自然に一定の型式を必要とすることになったのではないかと想像される。
 こういうふうにいったん固定してしまうと、それが他のあらゆる文化の伝統と連鎖を成してあたかもクロモソームのように結合し、そうして代から代へと遺伝されて来たものであろう。
 しかしまた遺伝のほうでいわゆる「突然変異《ミューテーション》」が行なわれるように、時々はいろいろな奇形児が生まれたであろうということは想像し難いことではない。しかしまた、そうした奇形児がいくらできてもその当時の環境に適合しなければその変形は存続することができなくて死滅したであろうと考えられる。
 短歌から連歌への変遷もやはり一種の進化と見られる。たとえば一個のポリプを二つにちぎって、それぞれに独立の生命を持たせ、そうしてあとでそれを次々に接枝して行って一つの群体を作ったというふうにも見られなくはない。俳句はそのようなものの頭だけが分離し固定したものと言われないこともない。もちろん生物界でそういうふうの進化をしたものはないかもしれないが、そういう仮想的な変遷もやはり一種の進化と見られないことはないであろう。
 そういうふうにして一度固定した俳句の型式が環境に適応したために何百年も遺伝されて伝わって来たのが、近代になって急に何かの原因で盛んに「突然変異《ミューテーション》」を生じて新型式を濫発せしめたというふうに考えられる。
 生物の突然変異を生ずる原因が何であるかについてはそのほうの専門家でない自分のよく知るところでないが、しかし少なくもその一つの因子としては外界の物理的化学的条件が参与していることは疑いもないことである。地質時代でもある時代におけるこうした環境条件が特に突然変異の誘発に好適であったために、特にその時代に新しい型式の生物が多数に発生したであろうということも想像できるのであるが、それと同じように文化的要素の進化の道程における突然変異もまたその時代におけるいろいろな外的条件に支配されるものであって紫外線X線の放射、電流の刺激、特殊
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