のとの区別によるのではないかとの説もあったが、なかなかそれだけのことでは決定されそうにない。そういう外部の物理的化学的条件だけではなくて、もっと大切な各樹個体に内在する条件があるのではないかと素人《しろうと》考えにも想像されるのであった。もちろん生物学をよく知らない自分にはほんとうのことはわからない。
 この銀杏でもプラタヌスでも、やはり一種の生物であってみれば、ただの無機物のようにそうそう簡単でないのはむしろ当然のことであろう。
 それはとにかく、こんなちょっとした例を見ただけでも、環境の作用だけで「人間」を一色にしようとする努力が無効なものである、という、その平凡な事実の奥底には、普通政治家・教育家・宗教家たちの考えているとはかなり違った、自然科学的な問題が伏在していることが想像されるようである。
[#地から3字上げ](昭和九年十一月、中央公論)


底本:「寺田寅彦随筆集 第五巻」岩波文庫、岩波書店 
   1948(昭和23)年11月20日第1刷発行 
   1963(昭和38)年6月16日第20刷改版発行 
   1997(平成9)年9月5日第65刷発行
※本作品中には、身体
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