いにされる事を覚悟するだけの勇気が入用である。
金米糖
金米糖《こんぺいとう》という菓子は今日ではちょっと普通の菓子屋|駄菓子屋《だがしや》には見当たらない。聞いてみるとキャラメルやチョコレートにだんだん圧迫されて、今ではこれを製造するものがきわめてまれになったそうである。もっとも小粒で青黄赤などに着色して小さなガラスびんに入れて売っているのがあるが、あれは少し製法がちがうそうである。
この金米糖のできあがる過程が実に不思議なものである。私の聞いたところでは、純良な砂糖に少量の水を加えて鍋《なべ》の中で溶かしてどろどろした液体とする。それに金米糖の心核となるべき芥子粒《けしつぶ》を入れて杓子《しゃくし》で攪拌《かくはん》し、しゃくい上げしゃくい上げしていると自然にああいう形にできあがるのだそうである。
中に心核があってその周囲に砂糖が凝固してだんだんに生長する事にはたいした不思議はない。しかしなぜあのように角《つの》を出して生長するかが問題である。
物理学では、すべての方向が均等な可能性をもっていると考えられる場合には、対称《シンメトリー》の考えからすべての方面に
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