中に見当たらない」、すなわちだれもまだ手を着けなかったという事自身以外に理由は見当たらないように思われる。しかし人が顧みなかったという事はこの問題のつまらないという事には決してならない。
もし西洋の物理学者の間にわれわれの線香花火というものが普通に知られていたら、おそらくとうの昔にだれか一人や二人はこれを研究したものがあったろうと想像される。そしてその結果がもし何かおもしろいものを生み出していたら、わが国でも今ごろ線香花火に関する学位論文の一つや二つはできたであろう。こういう自分自身も今日まで捨ててはおかなかったであろう。
近ごろフランス人で刃物を丸砥石《まるといし》でとぐ時に出る火花を研究して、その火花の形状からその刃物の鋼鉄の種類を見分ける事を考えたものがある。この人にでも提出したら線香花火の問題も案外早く進行するかもしれない。しかしできる事なら線香花火はやはり日本人の手で研究したいものだと思う。
西洋の学者の掘り散らした跡へはるばる遅ればせに鉱石の欠けらを捜しに行くもいいが、われわれの足元に埋もれている宝をも忘れてはならないと思う。しかしそれを掘り出すには人から笑われ狂人扱
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