mニムの数が、上記4の二倍であるとすれば、以上の百分値はやはり二倍になるだけであるから、このほうから結果の桁数《オーダー》に著しい影響は起こらない。
 次に特別な場合として、邦語をかな一つ一つに切り離し、その一つ一つと音韻の似た原語と同義のシナ文字を求め、それを接合して説明をするという、普通よくあるやり方をするとどうなるか。この場合は、a1 b1[#「1」はすべて下付き小文字] いずれも1で他は零となるから
[#ここから5字下げ、ここから数式]
P = s1a1b1[#「1」はすべて下付き小文字]1/14[#「1/14」は分数] = s1[#「1」は下付き小文字]×0.0714
[#ここで字下げ終わり、ここで数式終わり]
しかるにシナでは異音類義の字が多いからこの s1[#「1」は下付き小文字] が大きくなりうる。かりに s1[#「1」は下付き小文字] を5とすると、三五、七プロセントという多数の暗合を見る事になる。これはこの種の方法による比較の価値を判断する際に参考になると思う。なおこの場合に同じ漢字の発音に対して、各地方的発音の異なるものを材料として、その中から都合のいいものを採るとなると s1[#「1」は下付き小文字] がさらにいっそうはなはだしく大きくなって、結局どうでもなるという事になり、かくのごとき比較の言語学上の価値はきわめて希薄になって来る事は明らかである。
 次に比較の標準を少し下げて、メタセシスを許容すると、Pの展開式のi項に※[#「i」の左側と下側を線で囲った記号、187−9]が乗ぜられる事になるが(ただし子音が皆異なるとして)、これでは少なくもnがあまり小さくない限り、明らかに最後の結果の桁数《オーダー》に変化は起こらない。
 次に、子音|転訛《てんか》を拡張して行くと、上記のnが減少し、νが増加するから、これはPに重大な影響を及ぼす事となる。かりに濁音を清音と同じにしたり、kとh、mとb、sとtなどを同一視したりいろいろして行くと、独立したものの数nは僅々《きんきん》五つか六つになってしまう。従って最後のPは著しく増大する。たとえば、nを5とすると
[#ここから5字下げ、ここから数式]
1/5[#「1/5」は分数] = 0.2; 1/52[#「2」は上付き小文字、「1/52」は分数] = 0.04; 1/53[#「3」は上付き小文字、「1/
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