轤黷、る性質のものである。
 以上はできるだけ事がらを簡単に考えた考え方である。これ以上にだんだん試験的、近似的仮定を修正して、少しずつ実際の場合に近づけて行く事も、原理上からの困難はなく、ただ次第に計算が込み入るだけである。しかし、今のところ、あまりに込み入った計算では実用にならないから、できるならば簡単な形で進みたい。
 それで第一の試みとしては、まず前記のいちばん簡単な場合になるべく適合するように、材料のほうを選定し排列する事である。それはたとえば両国語の適当な語彙から比較に不適当な分子、たとえば本質的でないと思わるる接頭語、接尾語などを整理し(もちろんこれにはある仮定を要するが、それが tentative method として許容される事は、いわゆる精密科学においても同様である。そしてこの仮定には従来言語学者の苦心研究の結果が全部有効に利用されるはずである。)そうしてそれについて上記のabを出し、sは「近似的平均値」を推定して導入する。ここでいちばん困難なはABのnを同一に整理する事であるが、これにもいろいろの方法がある。たとえばA日本語とB英語の場合ならば、まず日本語のほうを、かりに「日本式ローマ字」で書く、しかして英語子音の「文字」の中で日本式にないものはかりに後者のどれかで「置換」する。たとえばcやqを皆kに直す類である。複子音も同様である。xなどは省いても、何かで置換しても統計の結果の値にはたいした影響は与えない事は明らかである。アラビアなどとなると、だいぶこの置換が困難な問題となるが、しかしたとえば喉音《こうおん》のあるものは半数だけkかg、残り半数をhで代用するというような試験的便法を取って第一歩を進める事もできる。(ここに統計的方法の長所があるとも言われる。)またたとえばマライ語の場合ならば ber, mer, per などのプレフィックスのrを省いてみるとか、中間のngを省いてみるとかする事も試みてよいわけである。
 かくのごとき試験的《テンタティヴ》の整理によって、ともかくも両国語の子音がそれぞれかりに十四になったとする。次にかりに a1 a2 a3 a4 b1 b2 b3 b4[#アラビア数字はすべて下付き小文字] がいずれも1/4[#「1/4」は分数]で a5 b5[#「5」はすべて下付き小文字] 以上は零とし、s1 s2 s3 s4[
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