だけでもたくさんの問題が未解決のまま残されている。たとえばつい近ごろアメリカで、巻き煙草《たばこ》の吸いがらから火事の卵のできる比率条件について実験的研究を行なった結果の報告が発表されていた。しかしその結果が気候を異にする日本にどこまで適用されうるかについてはだれも知らない。またたとえばガソリンが地上にこぼれたときいかなる気象条件のもとにいかなる方向にいかなる距離で引火の危険率が何プロセントであるかというようなことすらだれもまだ知らないことである。
火災延焼に関する方則も全然不明である。延焼を支配するものは当時の風向風速気温湿度等のみならず、過去の湿度の履歴効果も少なからず関係する。またその延焼区域の住民家屋の種類、密集の程度にもよることもちろんである。これらの支配因子が与えられた場合に、火災が自由に延焼するとすればいかなる速度でいかなる面積に広がるかという問題についてたしかな解答を与えることは現在において困難である。しかしこれとても研究さえすれば次第に判明すべき種類の事がらである。この基礎的の方則が判明しない限り大火に対する有効な消防方針の決定されるはずはないのである。
火災の基
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