学的現象であって、そうして九九プロセントまでは人間自身の不注意から起こるものであるというのは周知の事実である。しかし、それだから火事は不可抗力でもなんでもないという説は必ずしも穏当ではない。なぜと言えば人間が「過失の動物」であるということは、統計的に見ても動かし難い天然自然の事実であるからである。しかしまた一方でこの過失は、適当なる統制方法によってある程度まで軽減し得られるというのもまた疑いのない事実である。
それで火災を軽減するには、一方では人間の過失を軽減する統制方法を講究し実施すると同時に、また一方では火災|伝播《でんぱ》に関する基礎的な科学的研究を遂行し、その結果を実地に応用して消火の方法を研究することが必要である。
もちろん従来でも一部の人士の間では消防に関する研究がいろいろ行なわれており、また一方では防火に関する宣伝につとめている向きも決して少なくはないようであるが、それらの研究はまだ決して徹底的とは言い難く、宣伝の効果もはなはだ薄弱であると思われる。
消防当局のほうでもたとえばポンプや梯子《はしご》の改良とか、筒先の扱い方、消し口の駆け引きといったようなことはかなり
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