ケウ」すなわち顎[#「顎」に傍点]であろう。能登がアイヌの「ノト」頤《おとがい》である事は多くの人が信じている。
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坪井博士の説ではトサはやはりチャム系の言葉で雨嵐[#「雨嵐」に傍点]の国だそうである。これだとあまり有難くない国である。
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高知 これは従来の説では、河内《こうち》すなわちデルタだそうである。坪井博士の説ではチャム語で島[#「島」に傍点]である。しかしアイヌだと「コッチ」「コーチ」宅地[#「宅地」に傍点]となる。これはまたマレイの「コータ」堡塁[#「堡塁」に傍点]とのある関係を思わせる。
[#ここで字下げ終わり]
 以上は大部分ただ偶然の暗号に過ぎないかもしれない。しかし中には実際ある関係をもつものもあるかもしれない。関係があるとしても、それがどういう関係であるかは分らない。実際アイヌの先祖の言葉であるのか、また我々の先祖の言葉が今のアイヌの言語に混入しているのか、あるいは朝鮮、支那、前インド、南洋から後に渡来したのがアイヌの先祖と吾等の先祖の言語に混合しているのかそれはなかなか容易に決定し難い問題である。
 ただ以上のようにこじつけ得られるという事自身には何らかの意義があるであろう。この事実がもし我郷土の研究者に何かの暗示を与える端緒ともならば大幸である。
[#地から1字上げ](昭和三年一月『土佐及土佐人』)



底本:「寺田寅彦全集 第六巻」岩波書店
   1997(平成9)年5月6日発行
※著者が、アイヌ語との関連を疑ってあげた地名中の小書き片仮名に関しては、JIS X 0213のアイヌ語表記用片仮名の面区点番号を添えて、外字注記しました。
入力:Nana ohbe
校正:浅原庸子
2005年8月19日作成
青空文庫作成ファイル:
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