を見るべきを教えている。この他にも賭事《かけごと》や勝負に関する記事のあるところを見ると著者自身かなりの体験があったことが想像されて面白い。
 宿河原《しゅくがわら》のぼろぼろの仇討決闘の話でも、我執無慙《がしゅうむざん》を非難すると同時にまた「死を軽くして、少しもなづまざるかたのいさぎよさ」を讃えている。
 これらの著者の態度は一方から云えば不徹底で生煮えのようでもあるが、ものの両面を認識して全体を把握し、しかもすべての人間現象を事実として肯定した上で、可と不可とに対する考えをきめようとしているらしく思われる。この点がどこか吾々科学者の心掛けるものの見方に類するところがあるように思われるのである。
 以上述べたような項目の外に著しく多数に散在しているのは有職故実《ゆうそくこじつ》その他あらゆる知識に関するノートと云ったものである。これらも分類的に研究したら面白そうであるが今回は暇がないから略する。とにかく一方では遁世守愚をすすめながらも、また一方では知識というものの効能を高く買っていることがよくわかる。第五十一段の水車の失敗は先日の駆逐艦進水式の出来損ねを思い出させる。
 知識とは少
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