かずき》に底あることを望んだり、久米《くめ》の仙人に同情したり、恋愛生活を讃美したりしているが、また一方では(第百七段)ありたけの女性のあらを書き並べて痛快にこき下ろしているのである。一種の弁証法を用いたのであろう。
色を説いた著者はまた第二百十七段で蓄財者の心理を記述しこれに対する短評を試みている。引用された大福長者の言葉は現代の百万長者でもおそらく云うことであろうし、金持になりたい人々の参考すべき「何とか押切帖《おしきりちょう》」の類であろうが、またこれに対する著者の評は、金のたまらぬ人間の安心立命《あんじんりゅうめい》の考え方を示すものである。
酒飲む人のだらしのなさを描いた第百七十五段も面白い。六百年昔の酒飲みも今日の呑んだくれとよく似ている。それで絶対に禁酒を強調するかと思っていると、「おのづから捨てがたき折もあるべし」などとそろそろ酒の功能を並べているのもやはり「科学的」なところがある。
勝負事を否定する(第百十一段)かと思うと、双六《すごろく》の上手の言葉を引いて(第百十段)修身治国の道を説いたり、ばくち打の秘訣(第百二十六段)を引いて物事には機会と汐時《しおどき》
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