熱心に電車の来る方向を気にして落ち着かない表情を露出している。その間に群れの人数はだんだんに増す一方である。五分か七分かするとようやく電車が来る。するとおおぜいの人々は、降りる人を待つだけの時間さえ惜しむように先を争って乗り込む。あたかも、もうそれかぎりで、あとから来る電車は永久にないかのように争って乗り込むのである。しかしこういう場合にはほとんどきまったように、第二第三の電車が、時間にしてわずかに数十秒長くて二分以内の間隔をおいて、すぐあとから続いて来る。第一のでは、入り口の踏み台までも人がぶら下がっているのに、それがまだ発車するかしないくらいの時同じ所に来る第二のものでは、もうつり皮にすがっている人はほんの一人か二人くらいであったり、どうかすると座席に空間ができたりする。第三のになると降りる人の降りたあとはまるでがら明きの空車になる事も決して珍しくない。
こういうすいた車が数台つづくと、それからまた五分あるいは十分ぐらいの間はしばらく車がと絶える。その間に停留所に立つ人の数はほぼ一定の統計的増加率をもって増して行く。それが二十人三十人と集まったころにやって来る最初の車は、必ずすで
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