田園雑感
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)都会と田舎《いなか》と
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)代表的|田舎者《いなかもの》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)そしてなしくずし[#「なしくずし」に傍点]に
−−
一
現代の多くの人間に都会と田舎《いなか》とどちらが好きかという問いを出すのは、蛙《かえる》に水と陸とどっちがいいかと聞くようなものかもしれない。
田舎だけしか知らない人には田舎はわからないし、都会から踏み出した事のない人には都会はわからない。都鄙《とひ》両方に往来する人は両方を少しずつ知っている。その結果はどちらもわからない前の二者よりも悪いかもしれない。性格が分裂して徹底した没分暁漢になれなくなるから。それはとにかく、自分は今のところでは田舎《いなか》よりも都会に生活する事を希望し、それを実行している。
田舎の生活を避けたい第一の理由は、田舎の人のあまりに親切な事である。人のする事を冷淡に見放しておいてくれない事である。たとえば雨のふる日に傘《かさ》をささない
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