企て、内容の根本的革新を夢みるのもあえてとがむべき事ではないとしても、その企図に着手する前に私がここでいわゆる全機的日本の解剖学と生理学を充分に追究し認識した上で仕事に取り掛からないと、せっかくな企図があるいはおそらく徒労に終わるのではないかと憂慮されるのである。
 美術工芸に反映した日本人の自然観の影響もまた随所に求めることができるであろう。
 日本の絵画には概括的に見て、仏教的漢詩的な輸入要素のほかに和歌的なものと俳句的なものとの三角形的な対立が認められ、その三角で与えられるような一種の三角座標をもってあらゆる画家の位置を決定することができそうに思われる。たとえば狩野《かのう》派・土佐《とさ》派・四条《しじょう》派をそれぞれこの三角の三つの頂点に近い所に配置して見ることもできはしないか。
 それはいずれにしてもこれらの諸派の絵を通じて言われることは、日本人が輸入しまた創造しつつ発達させた絵画は、その対象が人間であっても自然であっても、それは決して画家の主観と対立した客観のそれではなく両者の結合し交錯した全機的な世界自身の表現であるということである。西洋の画家が比較的近年になって、む
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