構造《ちかくこうぞう》が細かいモザイックから成っており、他の世界の種々の部分を狭い面積内に圧縮したミニアチュアとでもいったような形態になっているためであろうと思われるのである。
 地形の複雑なための二次的影響としては、距離から見ればいくらも離れていない各地方の間に微気候学的《ミクロクリマトロジカル》な差別の多様性が生じる。ちょっとした山つづきの裏表では日照雨量従ってあらゆる気候要素にかなり著しい相違のあるということはだれも知るとおりである。その影響の最も目に見えるのはそうした地域の植物景観の相違である。たとえば信州《しんしゅう》へんでもある東西に走る渓流《けいりゅう》の南岸の斜面には北海道へんで見られるような闊葉樹林《かつようじゅりん》がこんもり茂っているのに、対岸の日表の斜面には南国らしい針葉樹交じりの粗林が見られることもある。
 単に微気候学的差別のみならず、また地質の多様な変化による植物景観の多様性も日本の土地の相貌《そうぼう》を複雑にするのである。たとえば風化せる花崗岩《かこうがん》ばかりの山と、浸蝕《しんしょく》のまだ若い古生層の山とでは山の形態のちがう上にそれを飾る植物社会
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