ーがガラス板の上で茶わんをすべらせたりした草分けの実験から始まって、その後ハーディの有名な研究(物理学|文献抄《ぶんけんしょう》第一集二五八ページ)などに引き続きいろいろの方面に関係しての文献は少なくはない。しかしそれだけではこの洗面鉢の問題はまだなかなか解決されそうもない。第一水の存在が必要だとすればその水がいかなる役目をするかについては、おそらく何人《なんぴと》もいまだ適確な答解を与えることができないであろう。
自分の経験では金だらいの縁がひどく油あかでよごれているときは鳴らない。石鹸《せっけん》で一応洗った時によく鳴るようである。しかし絶対に油脂を除去するのは簡単にはできないので、その場合にどうなるかは不明である。
この場合に油膜の存在と摩擦の関係が明らかになったとしても、この場合の摩擦によって金だらいの規則正しい振動の誘発される機巧についてはまだよくわからないことがかなりに多く伏在しているのである。クラドニの実験や、またヴァイオリンの場合に松やにをつけた毛で摩擦する際にどうして振動が継続されるかの問題についてはヘルムホルツ以来本質的にはほとんど一歩も進んだ解釈は与えられてい
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