二科展院展急行瞥見記
寺田寅彦
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)好みに背馳《はいち》して
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)斎藤|豊作《ほうさく》氏の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和八年十月『中央美術』)
−−
九月三日は朝方荒い雨が降った、やがて止んだが重苦しい蒸暑さがじりじりと襲って来た。仕事をしていると『中央美術』から電話が掛かって今日が二科会展覧会の招待日であることを想い出させられた。数年前まではこの日を指折り数えて楽しみにしていたのが、近年どうしたわけか、急に興味が減退した。今年はとうとう肝心の日をすっかり忘れてしまっていたのである。甚だ申訳ない次第である。これは一つには自分がだんだん年を取ってすべてのものに対する感興の強度を減らしたためもあるかもしれないが、一つにはまた実際に近頃の二科会の絵の傾向が自分の好みに背馳《はいち》して来たように思われたためもある。昨年の会など、見ているうちに何だか少しむっとするような気がして来てとうとう碌《ろく》に見ないで帰って来て、そ
次へ
全10ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング