り化け物であろうが人間が見るとやはり美しい。
 ベコニア、レッキスの一種に、これが人間の顔なら焼けどの瘢痕《はんこん》かと思われるような斑紋のあるのがある。やけどと思って見るとぞっとするくらいであるがレッキスとして見れば実に美しい。
 アフリカの蛮人でくちびるを鐃※[#「拔」の「てへん」に代えて「金」、第3水準1−93−6]《にょうばち》のように変形させているのや、顔じゅう傷跡だらけにしているのがあるが、あれはどうもどう見ても美しいと思えない。あれでもやはりまだあまりに多くわれわれに似すぎているからであろう。
 ほんとうに非凡なえらい神様のような人間の目から見たら、事によるとわれわれのあらゆる罪悪がみんなベコニアやカラジウムの斑点のごとく美しく見えるかもしれないという気がする。

       五

 朝二階の寝間の床の上で目をさまして北側の中敷窓から見ると隣の風呂《ふろ》の煙突が見える。煙突と並行して鉄の梯子《はしご》が取り付けてあるのによくすずめの群れが来て遊んでいる。まず一羽飛んで来て中段に止まる。あとからすぐに一羽追っかけて来て次の段にとまる。第三のが来て空中で羽ばたきしながら
前へ 次へ
全19ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング