藤の実
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)藤棚《ふじだな》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|間《けん》ぐらい

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ](昭和八年二月、鉄塔)
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 昭和七年十二月十三日の夕方帰宅して、居間の机の前へすわると同時に、ぴしりという音がして何か座右の障子にぶつかったものがある。子供がいたずらに小石でも投げたかと思ったが、そうではなくて、それは庭の藤棚《ふじだな》の藤豆《ふじまめ》がはねてその実の一つが飛んで来たのであった。宅《うち》のものの話によると、きょうの午後一時過ぎから四時過ぎごろまでの間に頻繁《ひんぱん》にはじけ、それが庭の藤も台所の前のも両方申し合わせたように盛んにはじけたということであった。台所のほうのは、一|間《けん》ぐらいを隔てた障子のガラスに衝突する音がなかなかはげしくて、今にもガラスが割れるかと思ったそうである。自分の帰宅早々経験したものは、その日の爆発の最後のものであったらしい。
 この日に限って、こうまで目立ってたくさんにいっせ
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