づいたことであった。たとえば、春季に庭前の椿《つばき》の花の落ちるのでも、ある夜のうちに風もないのにたくさん一時に落ちることもあれば、また、風があってもちっとも落ちない晩もある。この現象が統計的型式から見て、いわゆる地震群の生起とよく似たものであることは、すでに他の場所で報告したことがあった。
もう一つよく似た現象としては、銀杏《いちょう》の葉の落ち方が注意される。自分の関係しているある研究所の居室の室外にこの木の大木のこずえが見えるが、これが一様に黄葉して、それに晴天の強い日光が降り注ぐと、室内までが黄金色《こがねいろ》に輝き渡るくらいである。秋が深くなると、その黄葉がいつのまにか落ちてこずえが次第にさびしくなって行くのであるが、しかしその「散り方」がどうであるかについては去年の秋まで別に注意もしないでいた。ところが去年のある日の午後なんの気なしにこの木のこずえをながめていたとき、ほとんど突然にあたかも一度に切って散らしたようにたくさんの葉が落ち始めた。驚いて見ていると、それから十余|間《けん》を隔てた小さな銀杏《いちょう》も同様に落葉を始めた、まるで申し合わせたように濃密な黄金色
前へ
次へ
全7ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング