毒するだろうが、あのころそういう衛生上の注意が行き届いていたかどうか疑わしい。しかし今日でも文化の輸入|伝播《でんぱ》に付いて来る種々な害毒がかなり激烈で、しかもそれを防ぐ事ができないのであるから、耳の病気ぐらいはやむを得ない事であったかもしれない。
改良を加えた蝋管蓄音機《ろうかんちくおんき》を聞きそこなった私は、音色の再現がどのくらいまで完全に行ったかを経験する事ができなかった。しかしかなりまで完成に近づいていたには相違ない。種々な楽器の音や特に昔から問題となっている人声母音の組成要素を分析し研究するに適当な材料としてこの蝋管記録が種々に利用された。蝋管に刻まれた微細な凹凸《おうとつ》を巧妙な仕掛けで郭大した曲線を調和分析にかけて組成因子の間の関係を調べたりして声音学上の知識に貢献した事も少なくない。この種の研究は平円盤の発明によって非常な進捗《しんちょく》を遂げた事はいうまでもない。蝋管記録の寿命はせいぜい千回ぐらいであるのに平円盤の原型の寿命はほとんど永久であると言ってもよい。それでたとえば現在のある国語の発音を記録しておいて百年千年万年の後のものと比較してその変遷を調べる事
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