来た。それは妙に押しつぶされたような鼻声ではあったが、ともかくも文学士の特徴ある「ラアヽ」などの抑揚をかなり忠実に再現したので、講堂の中からは自然な感嘆の声とおさえつけた笑声とが一時に沸きあがった。
 この一日の出来事はどういうものか私の中学時代の思い出の中に目立って抜き出た目標の一つになっている。一つにはこの泰西科学の進歩がもたらした驚異の実験が、私の子供の時から芽を出しかけていた科学一般に対する愛着の心に強い衝動を与えたためであろうが、そのほかにまだ何かしらある啓示を与えたものがあるためではないかと思っている。私は今でも事にふれてこの文学士の「高い山から」を思い出す。あの時にあの罪のない俚謡《りよう》から流れ出た自由な明るい心持ちは三十年後の今日まで消えずに残っていて、行きづまりがちな私の心に有益な転機を与え、しゃちこ張りたがる気分にゆとりを与える。これはおそらく私の長い学校生活の間に受けた最もありがたい教えの中の一つではなかったかと思う。業に疲れ生に倦《う》んだ時に私はいろいろの形式でいろいろの「高い山」を歌う。そうして新しい勇気と希望を呼び返すのである。
 私にはかなり重大な、
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