を反射させて見た時に一方のはなんとなくがさがさした感じを与えるが、一方は油でも含んだような柔かい光沢を帯びている。これは刻まれた線の深さにもよる事ではあろうが、ともかくもレコードの発する雑音の多少がこの光沢の相違と密接な関係のある事は疑いもない事である。これは材料その物の性質にもよりまた表面の仕上げの方法にもよるだろうが、少しの研究と苦心によって少なくも外国製に劣らぬくらいにはできそうなものであるのに、それができていないのはどういう理由によるものか、門外漢にはわかりかねる。しかし私の知れる範囲内では、蓄音機レコードの製造工場へ聘《へい》せられて専心その改良に没頭している理学士は一人もないようである。もっともこれは別に蓄音機のみに関した事ではない。当然専門の理学士によってのみ初めてできうべき器械類が、そういう人の手によらずしてともかくも造られているという奇蹟的《きせきてき》事実は至るところに見受けられる事であるから。
いずれにしても今の蓄音機はまだ完全なものとは思われない。だれにでもいちばんに邪魔になるのはあのささら[#「ささら」に傍点]でこするような、またフライパンのたぎるような雑音
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