る。このような障害の根を絶つためには、一般の世間が平素から科学知識の水準をずっと高めてにせ物と本物とを鑑別する目を肥やしそして本物を尊重しにせ物を排斥するような風習を養うのがいちばん近道で有効ではないかと思ってみた。そういう事が不可能ではない事は日本以外の文明国の実例がこれを証明しているように見える。
 こんな事を考えているとわれわれの周囲の文明というものがだんだん心細くたよりないものに思われて来た。なんだか炬燵《こたつ》を抱いて氷の上にすわっているような心持ちがする。そして不平を言い人を責める前にわれわれ自身がもう少ししっかり[#「しっかり」に傍点]しなくてはいけないという気がして来た。

 断水はまだいつまで続くかわからないそうである。
 どうしても「うちの井戸」を掘る事にきめるほかはない。
[#地から3字上げ](大正十一年一月、東京・大阪朝日新聞)



底本:「寺田寅彦随筆集 第一巻」小宮豊隆編、岩波文庫、岩波書店
   1947(昭和22)年2月5日第1刷発行
   1963(昭和38)年10月16日第28刷改版発行
   1997(平成9)年12月15日第81刷発行
入力:(株)モモ
校正:かとうかおり
2003年5月20日作成
青空文庫作成ファイル:
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