の国語にはあらゆる民族の言語が混淆し融合してしまって、今となっては容易に分析することが出来ないようになってしまっているように思われる。我等の同胞の顔貌の中にはまたあらゆる人種の定型がそれぞれに標本的に洩れなく代表されているようである。
日本人が真に日本の土の中から生れ、日本の言語が全く独立に発生したと考えるのは、孑※[#「子の一が右半分だけ」、第4水準2−5−87]《ぼうふら》が水から発生すると考えるよりも一層非科学的である。同様に例えば日本の短歌の詩形が日本で始めて発生したものと速断するのも所由《いわれ》のないことであろうと思う。
五七五七七という音数律そのままのものは勿論現在では日本特有のものであろうが、この詩形の遠い先祖となるべきものが必ず何処かにあったであろうと想像し、その同じ先祖から出た他の家族が何処かにありはしなかったかと想像するのはそれほど唐突な空想とは思われない。
『古事記』に現われた色々の歌謡の音数排列を調べてみるとかなり複雑なものがあって到底容易には簡単な方則を見つけるわけに行かない。九、十、十一、十二、十四等の音から成る詩句が色々に重畳しているというだけしか分
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