ほうへのぼって、表面からは外側に向かって流れる、だいたいそういうふうな循環が起こります。よく理科の書物なぞにある、ビーカーの底をアルコール・ランプで熱したときの水の流れと同じようなものになるわけです。これは湯の中に浮かんでいる、小さな糸くずなどの動くのを見ていても、いくらかわかるはずです。
 しかし茶わんの湯をふたもしないで置いた場合には、湯は表面からも冷えます。そしてその冷え方がどこも同じではないので、ところどころ特別に冷たいむら[#「むら」に傍点]ができます。そういう部分からは、冷えた水が下へ降りる、そのまわりの割合に熱い表面の水がそのあとへ向かって流れる、それが降りた水のあとへ届く時分には冷えてそこからおりる。こんなふうにして湯の表面には水の降りているところとのぼっているところとが方々にできます。従って湯の中までも、熱いところと割合にぬるいところとがいろいろに入り乱れてできて来ます。これに日光を当てると熱いところと冷たいところとの境で光が曲がるために、その光が一様にならず、むらになって茶わんの底を照らします。そのためにさきに言ったような模様が見えるのです。
 日の当たった壁や屋根
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