をすかして見ると、ちらちらしたものが見えることがあります。あの「かげろう」というものも、この茶わんの底の模様と同じようなものです。「かげろう」が立つのは、壁や屋根が熱せられると、それに接した空気が熱くなって膨脹してのぼる、そのときにできる気流のむら[#「むら」に傍点]が光を折り曲げるためなのです。
このような水や空気のむら[#「むら」に傍点]を非常に鮮明に見えるようにくふうすることができます。その方法を使って鉄砲のたまが空中を飛んでいるときに、前面の空気を押しつけているありさまや、たまの後ろに渦巻《うずまき》を起こして進んでいる様子を写真にとることもできるし、また飛行機のプロペラーが空気を切っている模様を調べたり、そのほかいろいろのおもしろい研究をすることができます。
近ごろはまたそういう方法で、望遠鏡を使って空中の高いところの空気のむら[#「むら」に傍点]を調べようとしている学者もいたようです。
次には熱い茶わんの湯の表面を日光にすかして見ると、湯の面に虹《にじ》の色のついた霧のようなものが一皮かぶさっており、それがちょうど亀裂《きれつ》のように縦横に破れて、そこだけが透明に見えます。この不思議な模様が何であるかということは、私の調べたところではまだあまりよくわかっていないらしい。しかしそれも前の温度のむら[#「むら」に傍点]と何か関係のあることだけは確かでしょう。
湯が冷えるときにできる熱い冷たいむら[#「むら」に傍点]がどうなるかということは、ただ茶わんのときだけの問題ではなく、たとえば湖水や海の水が冬になって表面から冷えて行くときにはどんな流れが起こるかというようなことにも関係して来ます。そうなるといろいろの実用上の問題と縁がつながって来ます。
地面の空気が日光のために暖められてできるときのむら[#「むら」に傍点]は、飛行家にとっては非常に危険なものです。いわゆる突風なるものがそれです。たとえば森と畑地との境のようなところですと、畑のほうが森よりも日光のためによけいにあたためられるので、畑では空気が上り森ではくだっています。それで畑の上から飛んで来て森の上へかかると、飛行機は自然と下のほうへ押しおろされる傾きがあります。これがあまりにはげしくなると危険になるのです。これと同じような気流の循環が、もっと大仕掛けに陸地と海との間に行なわれております。そ
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