夫《じんりきしゃふ》になったと聞いたが、それからどうなったか一度も巡り合わずそれきり消息を知ることが出来ない。
 そういう怖い仲間とはまるで感じのちがう×というのが居た。うちは何商売だったか分らないが、その家の店先に小鳥の籠がいくつか並べてあった。梟《ふくろう》が撞木《しゅもく》に止まってまじまじ尤《もっと》もらしい顔をしていたこともあった。しかし小鳥屋専門の店ではなかったような気がする。
 その×は色の白い女のように優しい子であったが、それが自分に対して特別に優し味と柔らか味のある一風変った友達として接近していた。外の事は覚えていないがただ一事はっきり覚えているのは、この子が自分にときどき梟をやろうとか時鳥《ほととぎす》をやろうとかまた鷹をやろうとかいう申し出しをしたことである。但しそれには交換条件があって、おまえのもっている墨とかナイフとかを呉《く》れたら、というのであった。自分はどういう訳かその鷹がひどく欲しかったので、彼の申込みに応じて品は忘れたが彼の要求するものを引渡した。そうしていよいよ鷹が貰えると思って夜が寝られないほど嬉しがったものである。鷹を貰ってからのことを色々空中
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