に遊びに行って、そこで東京大相撲を見た記憶がある。小錦という大関だか横綱だかの白※[#「析/日」、第3水準1−85−31]《はくせき》の肉体の立派で美しかったことと、朝潮という力士の赤ら顔が妙に気になったことなどが夢のように思い出されるだけである。
 高等学校時代には熊本の白川の川原で東京大相撲を見た。常陸山《ひたちやま》、梅ケ谷、大砲などもいたような気がする。同郷の学生たち一同とともに同郷の力士国見山のためにひそかに力こぶを入れて見物したものである。ひいきということがあって始めて相撲見物の興味が高潮するものだということをこの時に始めて悟ったのであった。夜熊本の町を散歩して旅館|研屋《とぎや》支店の前を通ったとき、ふと玄関をのぞき込むと、帳場の前に国見山が立っていて何かしら番頭と話をしていた。そのときのこの若くて眉目秀麗《びもくしゅうれい》な力士の姿態にどこか女らしくなまめかしいところのあるのを発見して驚いたことであった。

     四

 大学生時代に回向院《えこういん》の相撲を一二度見に行ったようであるがその記憶はもうほとんど消えかかっている。ただ、常陸山、梅ケ谷、大砲、朝潮、逆
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