あろうと考えられている。
上昇気流のために生ずる積雲が、下降気流その他の原因で消滅した跡には、これらの凝縮核の集合した層が取り残される。地上から仰いで見てはよく分らないが、飛行機でその層を横にすかして見ると、それが明らかな層をなして棚引き、いわゆる「塵の地平線」を形成している。夕陽の色の原因となっているものも、おそらく主としてこの種のものであろう。
火山から噴出した微塵が、高い気層に吹き上げられて高層に不断に吹いている風に乗って驚くべき遠距離に散布される事は珍しくない。クラカトア火山の爆破の時に飛ばされた塵は、世界中の各所に異常な夕陽の色を現わし、あるいは深夜の空に泛《うか》ぶ銀白色の雲を生じ、あるいはビショップ環《かん》と称する光環を太陽の周囲に生じたりした。近頃の研究によると火山の微塵は、明らかに広区域にわたる太陽の光熱の供給を減じ、気温の降下を惹き起すという事である。これに聯関して饑饉《ききん》と噴火の関係を考えた学者さえある。
蒼空《あおぞら》の光も何物か空中にあって、太陽の光を散らすもののあるためと考えなければならない。もし何物もない真空であったら、太陽と星とが光るだけ
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