とき、そこから第二次の波が起ると同じ訳である。それがために、塵は光の進行を妨げると同時にそれを他の方面に分配する役目をする。塵を含んだ空気を隔てて遠方の景色を見る時に、遠いものほどその物から来る光が減少して、その代りに途中の塵から散らされて来る空の光の割合が多くなるから、目的物がぼんやりする訳である。
 池の面の波紋でも実験されるように、波の長さが障碍物《しょうがいぶつ》の大きさに対して割合に小さいほど、横に散らされる波のエネルギーの割合が増す。従って白色光を組成する各種の波のうちでも青や紫の波が赤や黄の波よりも多く散らされる。それで塵の層を通過して来た白光には、青紫色が欠乏して赤味を帯び、その代りに投射光の進む方向と直角に近い方向には、青味がかった色の光が勝つ道理である。遠山の碧《あお》い色や夕陽の色も、一部はこれで説明される。煙草《たばこ》の煙を暗い背景にあてて見た時に、青味を帯びて見えるのも同様な理由によると考えられる。
 このように、光の色を遮り分ける作用は、塵の粒が光の波の長さに対して、あまり大きくなればもう感じられなくなる。それで、遠景の碧味がかった色を生ずるような塵はよほ
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