は別に実験を要するわけである。
とにかく、これは一つの可能性を暗示するだけで実際はどうだかわからない。
もう一つの可能性がある。前記の浴室より、もう少し左上に当たる崖《がけ》の上に貸し別荘があって、その明け放した座敷の電燈が急に点火するときにそれをこっちのベランダで見ると、時によっては、一道の光帯が有限な速度で横に流出するように見えることがある。これはたぶんまつ毛のためやまた眼球光学系の溷濁《こんだく》のために生ずるものかと思われる。それで、事によると「火の玉」の正体がこれであったかもしれないとも思われる。しかしこれだとすると、たいていは光芒《こうぼう》射出といったようなふうに見えるのであって、どうも「火の玉」らしく見えそうもないと思われる。
そうかと言って、浴室の天井の電燈が一時消えていたというのは単なる想像であって実証をたしかめたわけでもなんでもないから、結局この問題の現象はなんだかわからないということに帰着するのであるが、しかしこの出来事の上記の考察から示唆された一つの実験的研究を、ほんとうに実行してみることはそうむだではあるまいかと思われる。たとえば、暗室の一点に被実験者
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