説を想わせるような雰囲気を感じる。
翌日自動車で鬼押出《おにおしだし》の溶岩流を見物に出かけた。千ヶ滝から峰の茶屋への九十九折《つづらおり》の坂道の両脇の崖を見ると、上から下まで全部が浅間から噴出した小粒な軽石の堆積であるが、上端から約一メートルくらい下に、薄い黒土の層があって、その中に樹の根や草の根の枯れ朽ちたのが散在している。事によると、昔のある時代に繁茂していた植物のコロニーが、ある年の大噴火で死滅し、その上に一メートルほどの降砂が堆積した後に、再び植物の移住定着が始まり、その後は無事で今日に到ったのではないかという気がする。
峰の茶屋には白黒だんだらの棒を横たえた踏切のような関門がある。ここで関守《せきもり》の男が来て「通行税」を一円とって還り路の切符を渡す。二十余年の昔、ヴェスヴィアスに登った時にも火口丘の上り口で「税」をとられた。その時はこの税の意味を考えたが遂に分からなかった。この峰の茶屋の税もやはり不思議な税の一つである。あとで聞くとこれは箱根土地株式会社の作った道路で専用道路だからとの事であった。
峰の茶屋から先の浅間東北麓の焼野の眺めは壮大である。今の世智辛《
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