い。白の頭巾《ずきん》に黒服で丸く肥《ふと》った|尼たち《シュエスター》が二人そばに立って監督している。室の後方の扉《とびら》があいている外側には、このへんの貧民がいっぱい立って騒々しく話している。机に並べられた子供の中には延び上がって後ろの群集を珍しそうにながめるのもあります。するとシュエスターが立って行って、頭をパタパタとたたいて向こうむきにすわらせる。そのうちに一人の子が、群集の中から阿母《おふくろ》の顔を見つけて、急に恋しくなって泣き出した。シュエスターが抱いて母親の所へつれて行ってやっとすかして席へつかしたが、やはり渋面をしては後ろを向いている。おおぜいの子供の中にはあくびをしているのもある。眠くてコクリコクリするのもあります。堂のすみには大きなタンネンバウムが立ててあってシュエスターが蝋燭《ろうそく》に火をつけ始めるとみんなそっちを見る。樹《バウム》の下の小さなお堂の中に人形の基督孩児《クリストキンド》が寝ている。やがて背中に紗《しゃ》の翼のはえた、頭に金の冠を着た子供の天使が二人出て来て基督孩児《クリストキンド》の両側に立つ。天使の一人はたいへん咳《せき》が出て苦しそうで
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