た。
停車場近くの神社で花崗石《みかげいし》の石の鳥居が両方の柱とも見事に折れて、その折れ口が同じ傾斜角度を示して、同じ向きに折れていて、おまけに二つの折れ目の断面がほぼ同平面に近かった。これが一行の学者達の問題になった。天然の実験室でなければこんな高価な「実験」はめったに出来ないから、貧乏な学者にとって、こうしたデータは絶好の研究資料になるのである。
同じ社内にある小さい石の鳥居が無難である。この石は何だろうと云っていたら、居合わせた土地のおじさんが「これは伊豆の六方石《ろっぽうせき》ですよ」と教えてくれた。なるほど玄武岩の天然の六方柱をつかったものである。天然の作ったものの強い一例かもしれない。
御濠《おほり》の石垣が少しくずれ、その対岸の道路の崖もくずれている。人工物の弱い例である。しかし崖に樹《た》った電柱の処で崩壊の伝播《でんぱ》が喰い止められているように見える。理由はまだよく分らないが、ことによるとこれは人工物の弱さを人工で補強することの出来る一例ではないかと思われた。両岸の崩壊箇所が向かい合っているのもやはり意味があるらしい。
県庁の入口に立っている煉瓦と石を積ん
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