など、『胸算用』には日蝕で暦を験《ため》すこと、油の凍結を防ぐ法など、『桜陰比事』には地下水脈験出法、血液検査に関する記事、脈搏で罪人を検出する法、烏賊墨《いかずみ》の証文、橙汁《だいだいじる》のあぶり出しなどがある。
詐欺師や香具師《やし》の品玉やテクニックには『永代蔵』に狼《おおかみ》の黒焼や閻魔鳥《えんまちょう》や便覧坊《べらぼう》があり、対馬《つしま》行の煙草の話では不正な輸出商の奸策《かんさく》を喝破しているなど現代と比べてもなかなか面白い。『胸算用』には「仕かけ山伏」が「祈り最中に御幣《ごへい》ゆるぎ出《いで》、ともし火かすかになりて消」ゆる手品の種明かし、樹皮下に肉桂《にっけい》を注射して立木を枯らす法などもある。
こういう種類の資料は勿論馬琴にもあり近松でさえ無くはないであろうが、ただこれが西鶴の中では如何にもリアルな実感をもって生きて働いている。これは著者が特にそうした知識に深い興味をもっていたためではないかと思われる。
西鶴がこういうテクニカルな方面における「独創」を尊重したのみならず、それをもって致富の要訣と考えていたことも彼の著書の到る処に窺《うかが》われ
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