味が出て来るようである。ジグスとマギーの漫画のようなものもそうであり、お伽噺や忠臣蔵や水戸黄門の講談のようなものもその類である。云わば米の飯や煙草のようなものになってしまうのかもしれない。そうなってしまえば、もうジャーナリズム的批評の圏外に出てしまって土に根を下ろしたことになるであろうが、今のジャーナリズムの世界ではそういうことはちょっと困難なように見える。
 以上は自分が今日までに感じた随筆難のありのままの記録で、云わば甚だ他愛のない「筆禍事件」の報告と愚痴のいたずら書に過ぎないが、こんなことまで書くようになるのもやはり随筆難の一つであるかもしれないのである。[#地から1字上げ](昭和十年六月『経済往来』)



底本:「寺田寅彦全集 第四巻」岩波書店
   1997(平成9)年3月5日発行
底本の親本:「寺田寅彦全集 文学篇」岩波書店
   1985(昭和60)年
初出:「経済往来」
   1935(昭和10)年6月1日
※初出時の署名は「吉村冬彦」です。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※「常山《くさぎ》の花《はな》
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