からない。この人の傾向を徹底させて行くとつまりは何もかいてないカンバスの面がいちばんいい事になりはしないか。
津田青楓《つだせいふう》。 「黒きマント」は脚から足のぐあいが少し変である。そのために一種サディズムのにおいのあるエロティックな深刻味があって近代ドイツ派の好きな人には喜ばれるかもしれないが、甘みのすきな私にはこれよりももう一つの「裸婦」のほうが美しく感ぜられる。やはり鋭いものの中に柔らかい甘みがある。この絵の味は主として線から来ると思う。この人の固有の線の美しさが発揮されている。「海水着少女」は見るほうでも力こぶがはいる。職業的美術批評家の目で見ると日傘《ひがさ》や帽子の赤が勝って画面の中心があまり高い所にあるとも言われる。これはおそらく壁面へずっと低く掲げればちょうどよくなると思う。静物も美しい。これはこの人の独歩の世界である。
山下新太郎《やましたしんたろう》。 この人の絵にはかつていやな絵というものを見ない。しかし興奮もさせられない。長所であり短所である。時々は世俗のいわゆる大作を見せてくださる事を切望する。
安井會太郎《やすいそうたろう》。 「桐《きり》の花咲く
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