なで「ケタケタ」という妖魔《ようま》の笑い声が飛び出した形に書き添えてあるのが特別の興味を引く。
その他にもたとえば「雪女郎」の絵のあるページの片すみに「マツオ[#「オ」に白丸傍点]オリヒシグ」としるしたり、また「平家蟹《へいけがに》」の絵の横に「カゲノゴトクツキマタ[#「タ」に白丸傍点]ウ」と書いて、あとで「マタ[#「タ」に白丸傍点]ウ」のタ[#「タ」に白丸傍点]を消してト[#「ト」に白丸傍点]に訂正してあったりするのをしみじみ見ていると、当時における八雲氏の家庭生活とか日常の心境とかいうものの一面がありありと想像されるような気がしてくるのである。おそらく夕飯後の静かな時間などに夫人を相手にいろいろのことを質問したりして、その覚え書きのようなつもりで紙片の端に書きとめたのではないかという想像が起こってくる。
「船幽霊」の歌の上に黒猫《くろねこ》が描いてあったり、「離魂病」のところに奇妙な蛾《が》の絵が添えてあったりするのもこの詩人の西欧的な空想と連想の動きの幅員をうかがわせるもののようである。
一雄《かずお》氏の解説も職業文人くさくない一種の自由さがあってなかなかおもしろく読まれ
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