として刊行したものだそうである。
なんといってもこの本でいちばんおもしろいものはやはりこの原稿の複製写真である。オリジナルは児童用の粗末な藁紙《わらがみ》ノートブックに当時|丸善《まるぜん》で売っていた舶来の青黒インキで書いたものだそうであるが、それが変色してセピアがかった墨色になっている。その原稿と色や感じのよく似た雁皮《がんぴ》鳥の子紙に印刷したものを一枚一枚左側ページに貼付《てんぷ》してその下に邦文解説があり、反対の右側ページには英文テキストが印刷してある。
書物の大きさは三二×四三・五センチメートルで、用紙は一枚漉《いちまいず》きの純白の鳥の子らしい。表紙は八雲氏が愛用していた蒲団地《ふとんじ》から取ったものだそうで、紺地に白く石燈籠《いしどうろう》と萩《はぎ》と飛雁《ひがん》の絵を飛白染《かすりぞ》めで散らした中に、大形の井の字がすりが白くきわ立って織り出されている。
これもいかにも八雲氏の熱愛した固有日本の夢を象徴するもののように見えておもしろい。このような蒲団地は、今日ではもうたぶんデパートはもちろんどこの呉服屋にも見つからないであろう。それをわざわざ調製したのだそ
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