それについて私の平生の疑問は、これらの連作をされる方々が、どういう方法で一聯の連作を纏《まと》めておられるかということであります。一見したところでは、人によってこれはずいぶん色々であるように思われます。しかし私の素人考《しろうとかんが》えではこの方法論はかなり突きつめて研究さるべき問題のように思われます。そうして色々の変った新しい様式が将来生れ得る可能性が多分にありそうにも思われます。今のところでは既にいくらかの定型が出来ているようでありますが、しかしもっとちがった型式がまだまだいろいろあってもよいような気がするのであります。
一人の作者の一聯の連作と並んで別の題でまた同じ人の数首の歌の出ているのは、私のような眼で読むものには、ちょっと気分が統一しないような感じがすることもあります。しかしよく見るとそういうのでも、どこかちゃんと一つの全体を形作って一人の作者のある時期の心の世界の断面を見るような気がすることもしばしばあります。
こういうことは、貴誌の方々には珍しくも何でもないことと思いますが、ただ平生から思っていることでありますから、これだけのことを申上げて、御懇《ごねんご》ろな御手紙に対する御返事に代えることと致したいと思います。どうか悪しからず御諒察を願います。[#地から1字上げ](昭和八年一月『アララギ』)
底本:「寺田寅彦全集 第一巻」岩波書店
1996(平成8)年12月5日発行
入力:Nana ohbe
校正:松永正敏
2004年3月24日作成
青空文庫作成ファイル:
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