初冬の日記から
寺田寅彦
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)銀杏《いちょう》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)多分|銘仙《めいせん》と
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和九年一月『中央公論』)
−−
一年に二度ずつ自分の関係している某研究所の研究成績発表講演会といったようなものが開かれる。これが近年の自分の単調な生活の途上に横たわるちょっとした小山の峠のようなものになっている。学生時代には学期試験とか学年試験とかいうものがやはりそうした峠になっていたが、学校を出ればもうそうしたものはないかと思うと、それどころか、もっともっとけわしい山坂が不規則に意想外に行手に現われて来た。これは誰でも同じく経験することであろう。しかしずっと年を取った後に、再びこうした規則正しく繰返される「試験」の峠を越そうとは予期しなかったが、そのおかげで若い日の学生時代の幻影のようなものを呼び返し、そうしてもう一度若返ったような錯覚を起こさせる機縁に際会するのである。
それはとにかく、学生時代に試験が無事
次へ
全22ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング