統の子孫であると考えてみた。そう思う事によってこの国土に対する自分の愛着の感情は増しても減りはしないような気がする。
 最後に「長慶子《ちょうげいし》」という曲を奏した。慶祝の意を表わしたもので、参会の諸員退出の時にこれを奏すと説明書にあったが、そのためか、奏楽中にがたがた席を立つ人が続々出て来た。
 近頃にない舒《の》びやかな心持になって門を出たら、長閑《のどか》な小春の日影がもうかなり西に傾いていた。

      三 ノーベル・プライズ

 ある夜いつものように仕事をしていると電話がかかって来た。某新聞社からだという。何事かと思って出てみると、国際電報によって昨年度と今年度のノーベル賞金の受賞者の名前の報知が届いた、その一人はアインシュタインで、もう一人はコーペンハーゲンのニールス・ボーアという人だそうだが、このボーアという人はいったいどんな人でどういう仕事をした人かというのである。私はなるべく簡単に自分の知ってる要点だけを話して電話を切った。そしてやりかけた仕事にとりかかるとまた電話がかかった。今度は別の新聞社から同じ事の問合わせであった。ボーアをまちがえてポーア/\と云ってい
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