外有効ではないだろうか。
こんな事を考えるともなく考えながら、私の心はいつか遠いわれわれの祖先の世に遊んでいた。
朗詠の歌の詞は「新豊《しんぽう》の酒の色は鸚鵡盃《おうむはい》の中に清冷たり、長楽《ちょうらく》の歌の声は鳳凰管《ほうおうかん》の裏《うち》に幽咽《ゆういん》す」というのだそうであるが、聞いていてもなかなかそうは聞きとれないほどにゆっくり音を引延ばして揺曳《ようえい》させて唱う。そしてその声が実際幽咽するとでもいうのか、どこか奥深い御殿のずっと奥の方から遥かに響いて来るような籠った声である。これは歌う人が口をあまり十分に開かず、唇もそんなに動かさずに、口の中で歌っているせいかもしれない、始めの独唱のときは、どの人が歌っているか、ちょっと見ては分らないようであった。
これもおそらく多くの現代人にはあまりに消極的な唱歌のように思われるかもしれない。もしそうであれば、それだけかえって必要な解毒剤《げどくざい》かもしれない。
管絃のプログラムが終ると、しばらくの休憩の後に舞楽が始まった。
一番目は「賀殿《かてん》」というのであった。同じ衣装をつけた舞人が四人出て、同じよう
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